アメリカのシュタイナー幼稚園に子供を通わせると共に,自分自身もシュタイナー幼稚園で保育に参加した松井るり子さんは,その体験をまとめた著書「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」の中で,先生と園児が毎日さよならする場面を次のように書かれています.
みんなでさよならした後,ジョイス先生は椅子に腰掛け,1人ずつ子供を呼んで,膝の上に乗せる.一瞬でも必ず子供と目を合わせるようにしているのだそうだ.複数の子供を持つ母親は,誰が一番好きかと聞かれると,平等に愛情を注いでいると言うつもりで,みんな好きだと答える.すると子供は,はぐらかされたように感じる.ジョイス先生を見ていたら,みんなの前で「先生はあなた達が大好きです」と演説しない代わりに,抱っこの間はその子のことだけを思い,大好きだと告げている.そこには嘘がなく,子供を十分に満足させて,素敵だと思った.
愛されている,大切にされているという実感.子供にとって,これが非常に重要なのだと思います.シュタイナー幼稚園での先生と子供達の交流を見守る中で,松井さんは次のように自分の子育てを反省されています.
子供がある日,何かできるようになると,次の日からは必ず1人でさせるのが「自分のことは自分でする習慣づけ」だと思ってきた.できるようになった途端に,手を引かれて,冷たくされる.できるようになるというのは寂しいものだ.そのような満たされない気持ちだけが尾を引く子育てをしてきたのかもしれない.
ギクッとさせられませんか.確かに,そのような育児をしている気がします.もっともっと,暖かく接してやれるのではないかと思います.
シュタイナー幼稚園で先生が子供を抱っこする様子を見て, 松井さんは,子供が「抱っこ」と言ってきたその一瞬は,その子のためだけの私になって,心をこめて抱っこすることにしたそうです.
手に持っているものと,心に抱えている色々な心配事を全部置いて,その子のために両手を空ける.少し目を合わせ,後は目を閉じて,両手と肩と首と顎とほっぺを使って子供に触れながら,「いい子いい子」とささやく.そうすると,不思議なほど短時間で,子供と心を通わせることができる.子供は穏やかに落ち着いて強くなり,私もまさにそのときに,子供をかわいがるエネルギーを補給できたと感じる.
試してみる価値がありそうですね.
親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから 著者: ラヒマ ボールドウィン 原著は,シュタイナー教育を志す母親達にバイブルと言われる本です.子供が生まれてから小学校に行くようになるぐらいまでを対象に,シュタイナー教育の考え方と具体的なアドバイスを与えてくれます.シュタイナー教育の指導者の資格を持つ翻訳者の力によるところも大きいのでしょうが,とても優しく書かれていて,読みやすいです. シュタイナーが正しいかどうかを評価するつもりはありませんし,仮に正しいとしても,すべての親がシュタイナー教育を志す必要があるとも言いません.でも,少なくとも,こういう考え方,こういう育児の方法があるのだということは知っておいて良いと思います.育児の全責任は最終的に親が負わなければならないわけですから,知りませんでしたで終わらせてしまうには,もったいないのではないかと思うのです. 是非,一度手にとって読んでみて下さい. |
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幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方 著者: 松井るり子 シュタイナー教育に魅せられ,母親としてシュタイナー幼稚園を体験した著者が,生まれてから小学校低学年頃までの育児について,自分の考えをまとめた本です.非常に優しい言葉遣いで書かれており,自分の意見やシュタイナーの意見を押し付けようとするのではなく,こういう育児もありますよと語りかけている雰囲気の本です. 育児の参考書として,またシュタイナー教育の入門書として,素晴らしい本だと思います.できれば,育児を始めるまでに読みたいですね. |
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七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育 著者: 松井るり子 米国に滞在した1年間,息子をシュタイナー幼稚園に通わせると共に,毎週1度の保育参加も経験した著者が,その幼稚園の様子を詳細に伝えてくれる本です.シュタイナー教育がどのようなものであるかを知りたい人には,非常に参考になるでしょう.大変読みやすく,押し付けがましくなく,幼稚園の様子,保育者の素晴らしさ,子供や大人の反応が素直に書かれていて,著者の感激がそのまま伝わってきます.シュタイナーなんて知らなくても,このような保育もあるのだと知るだけで大いに価値があります.育児に迷いがあるなら,是非とも読んで欲しい本です. |