早期知的教育について(シュタイナー教育の考え方)

シュタイナー教育における子供の成長過程の捉え方

シュタイナー教育が幼児期の教育をどのように捉えているか,つまり早期教育をどう捉えているかを知るには,まず,子供が成長していく様子をシュタイナーがどのように捉えていたかを知っておく必要があるでしょう.

シュタイナー教育では,生まれてから7歳まで,14歳まで,21歳までというように,7年ごとに区切りを置いています.このため,早期教育といわれる幼児期の教育は,最初の7年での教育ということになります.

ここで,早期教育の話に入る前に,シュタイナー教育における7年ごとの区切りについて,ラヒマ・ボールドウィンが著書「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」で述べている説明を見ておきましょう.

生後7年に行われる驚くほどの成長は,筋肉や骨が成長し,それらを調節できるようになるという,絶え間のない変化が積み重なって達成されます.この年代には,子供は主に反復と動きと自分の周りにあるすべてを模倣することを通して学びます.静かに座っているのは,子供にとってほとんど不可能であるだけでなく,不健康なことです.子供はすべてを自分の体を通して理解したいのです.例えば,幼稚園児は意志と体と動きに中心化しています.

7歳から14歳の間は感情が成熟していく時です.この年代の子供は,古代ギリシアやアメリカ開拓者の生活はどんなだったかというような「イメージ」が与えられるととても熱中します.したがって,教室でも芸術的かつ想像的な手法で教えれば,子供にとって訴えかける力も大きく,学びやすく,記憶しやすくなります.この年代の子供は,呼吸や循環過程のようなリズミカルなシステムに中心化しています.この年代の子供には音楽が特に大切です.音楽には常にリズムがあり,また,多くの場合「呼吸」と密接に結びついています.呼吸と心臓は感情との結びつきがとても強いのです.

14歳から21歳という時期の子供は,この時期に初めて,本当の意味で「頭」,つまり世界を分析したり,批判したりすることに中心化します.性的な器官が成熟するこの時期は,確かに身体的にも大切な変化が起こる時期であり,また感情の面でも激しさを見せることがあります.けれども,理性と抽象的な思考の力こそが,この時期に生まれる新しい要素です.この時期には,幾何学や物理学といった学科で,この力を使うことが必要です.同じように,原因と結果を理解する能力も,この時期に初めて現れるようになりますので,例えば「西欧文明における傾向」といったテーマは,高校生にとって初めて意味を持つようになるのです.独立した自分の判断というものが生まれ始めるのはこの時期です.

すなわち,シュタイナーの幼児教育に対する姿勢の根底には,幼い子供は自分の周りにあるすべてを模倣することを通して学ぶという考えがあるわけです.このため,頭で理屈を理解させるという類の教育は否定されるわけです.

ちなみに,7歳の前と後を分けるものは一体何でしょうか.それは,乳歯から永久歯への生え替わりです.

教育について,シュタイナーは1つの法則を全ての子供に当てはめようとはしていません.「評価や批判の眼を持って子供を眺めるのではなく,愛情を持って子供を細かく観察するとき,その時の子供に本当に必要なものが見えてくる」というのがシュタイナーの考え方です.子供は体つきや仕草や癖で何をして欲しいかのヒントを与えてくれるのだから,親や教師は,そのヒントを読み取る力を養う必要があるというわけです.

早期知的教育の否定

結論から述べると,シュタイナー教育は早期知的教育を否定しています.幼児に知的教育をしてはいけない理由を,「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」の中で,ラヒマ・ボールドウィンは次のように書いています.

マリア・モンテッソーリもシュタイナーも,子供に知的なことを直接教えてはいけないと述べました.モンテッソーリは,子供は体を通して学ぶべきだとしました.シュタイナーはもっと徹底しており,概念は歯が生え代わる以前の子供に教えられてはならないとしました.シュタイナーは,体がもっと成長し,急激な成長のために使われていたエネルギーが解放されて,イメージや記憶の能力が生まれてくるまでは,創造的遊び,想像力,模倣,動きのあるゲームや指遊び,手芸や芸術を強調したのです.

シュタイナーは,約7歳までの子供に早期の知的学習をさせ,知性と記憶を直接要求すると,身体の発達のために必要なエネルギーを使ってしまうので,後に問題が起こるとしました.幼い子供の身体的発達のために使われるエネルギーと同じものが,後の知的な発達のために使われるとしたのです.だから,知性には直接働きかけず,実際の経験と模倣を通じて学習していく形を勧めたのです.

身体,感情,思考が次第に成熟するにつれて,ようやく大人としての責任が取れる条件が整い始めるのです.

松井るり子さんは,著書「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」の中で,早期知的教育とお稽古ごととの関係について,次のように指摘されています.

7歳までは知的なことを一切教えないシュタイナー教育に賛成だから,算数や英語は習わせません,体操とサッカーとテニスとスイミングとバイオリンとピアノしかやっていませんというお母さんがいたが,ちょっと違う気がする.子供の遊びは,与えられたルールやフォームを課題としてこなしていくのとは本質的に違う.教えていることが教科でなくても,子供の夢想のベールを引き剥がし,まぶしい光の中において,さあ前進!とけしかける点で,早期知的教育とお稽古の嵐は何ら変わりないと思う.

子供の時間割を空白のないように塗り潰して勤勉に連れ歩けば,子供のために身を捧げる良いお母さんのように見える.しかし,子育てをそのように単元わけして買い揃えれば,本当に子供を育てたことになるのか.むしろ逆のように思われる.親は機関銃のように色々なものを子供に向かって撃ち出すよりも,夢想によって何かが生まれてくる時間を確保してやることに心を砕く方が大切ではないだろうか.

私はシュタイナー教の信者ではありませんが,「子供のため」という御旗の元,勉強や習いごとで子供を縛り付けるのには大反対です.私の考え方は,2005年8月11日の独り言「公文式幼稚園での勉強が家庭に及ぼす影響」や6月16日の独り言「子供は「空き時間」を「有効に」利用しなければならないのか」に書いています.

我が家は早期教育に熱心!?

自分の経験から,「勉強できる奴は勉強しなくてもできるし,できない奴はしてもできない.」と冷ややかに考えています.こう言うと,巷で流行の「ドラゴン桜」なんかを持ち出して,どんな子でもやればできるという声があがるかもしれないですが,無理なものは無理なんです.私に100mを9秒台で走れと言われても,仮に幼少期から特別な訓練を受けていたとしても無理でしょう.誰でも,生まれ持ったものがあると思います.

私は,いわゆる勉強できることを全然重視していません.テストで点を取る能力なんて,生きる力とはまるで関係のないものだと思っています.もちろん,テストで点を取る能力は,現在の日本のような社会制度では,少なくとも就職時点までは,効率的に生きる手助けにはなるでしょう.でも,それは効率的なだけであって,生きる力そのものとは関係ないのではないかと思うわけです.このため,小さいうちから子供に勉強させるつもりなんて全くありません.いろいろと勉強をさせてくれる幼稚園に入れたいとも思っていません.

それなのに,「早期教育に熱心」というラベルを貼られてしまいます.なぜなんでしょうか.先日,妻が出産した産婦人科に1ヶ月検診だったかに行ったとき,お世話になった助産師さんに,「早期教育やってるの?」と尋ねられたそうです.確かに,出産後5日間ほど家族全員が病院に寝泊まりしているときに,2歳になったばかりの長男が英語版の「クマのプーさん」のビデオを見ていたり,親と英単語でやりとりしていたりするのを見れば,無茶苦茶早期教育熱心に見えるでしょうね.でも,ビデオを見せるのは,どうしても気をそらせたい時だけですし,英単語を知っているのは,日本語の単語を知っているのと何も変わりません.ひらがな同様,アルファベットを教える気も全くないですから.そう言えば,最近,その長男が自分の頭を軽く叩きながら"Think, Think."と言うようになりました.これってプーさんのお決まりのポーズらしいです.この姿を見られたら,またまた早期教育に熱心と思われてしまうことでしょう.

親が子供を想う気持ちは非常に強いですから,自分がやりたくてもできなかったこと,自分ができなくて困ったことを,子供に不自由なくさせてやりたいと考えるのでしょう.これが早期教育を煽る結果に繋がっているのだと思っています.自分が受験で苦労した親は,子供に早期知的教育をしたり,エレベータ式の私学に入れたりすることで,何とか子供に苦労させないようにと努力するのでしょう.芸術の才能がなかったりすると,そういう習いごとをさせてやりたいと思うのでしょう.我が家で子供が英語のテープを聴いたり,英語の絵本を見たりしているのも,私が英語ができないからです.

でも,親は親,子供は子供,全く別の人間なわけです.自分の過去や現在に捕らわれず,本当に子供に必要なものを見定めてやりたいと思います.

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育児について書かれた,お勧めできる本

育児に関する知識を身に付けるための本

親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから

親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから

著者: ラヒマ ボールドウィン
出版: 学陽書房 (2000/11)
定価: ¥1,680
ISBN: 431366016X

原著は,シュタイナー教育を志す母親達にバイブルと言われる本です.子供が生まれてから小学校に行くようになるぐらいまでを対象に,シュタイナー教育の考え方と具体的なアドバイスを与えてくれます.シュタイナー教育の指導者の資格を持つ翻訳者の力によるところも大きいのでしょうが,とても優しく書かれていて,読みやすいです.

シュタイナーが正しいかどうかを評価するつもりはありませんし,仮に正しいとしても,すべての親がシュタイナー教育を志す必要があるとも言いません.でも,少なくとも,こういう考え方,こういう育児の方法があるのだということは知っておいて良いと思います.育児の全責任は最終的に親が負わなければならないわけですから,知りませんでしたで終わらせてしまうには,もったいないのではないかと思うのです.

是非,一度手にとって読んでみて下さい.

幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方

幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方

著者: 松井るり子
出版: 学陽書房 (1998/10)
定価: ¥1,470
ISBN: 4313660097

シュタイナー教育に魅せられ,母親としてシュタイナー幼稚園を体験した著者が,生まれてから小学校低学年頃までの育児について,自分の考えをまとめた本です.非常に優しい言葉遣いで書かれており,自分の意見やシュタイナーの意見を押し付けようとするのではなく,こういう育児もありますよと語りかけている雰囲気の本です.

育児の参考書として,またシュタイナー教育の入門書として,素晴らしい本だと思います.できれば,育児を始めるまでに読みたいですね.

七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育

七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育

著者: 松井るり子
出版: 学陽書房 (1994/07)
定価: ¥1,427
ISBN: 4313630279

米国に滞在した1年間,息子をシュタイナー幼稚園に通わせると共に,毎週1度の保育参加も経験した著者が,その幼稚園の様子を詳細に伝えてくれる本です.シュタイナー教育がどのようなものであるかを知りたい人には,非常に参考になるでしょう.大変読みやすく,押し付けがましくなく,幼稚園の様子,保育者の素晴らしさ,子供や大人の反応が素直に書かれていて,著者の感激がそのまま伝わってきます.シュタイナーなんて知らなくても,このような保育もあるのだと知るだけで大いに価値があります.育児に迷いがあるなら,是非とも読んで欲しい本です.

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