松井るり子さんは,著書「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」の中で,育児において戦うべき相手は自分の中にいるとした上で,次のように書かれています.
幼い子供に善悪を教えるのに,言葉を使って頭に訴えかけるのではなく,模倣されてもいいように,周りの大人が態度で示さなければならない,というのはシュタイナーの幼児教育で一番のポイントだろう.
シュタイナーの幼児教育の根底には,幼い子供は自分の周りにあるすべてを模倣することを通して学ぶという考えがあるようです.このことについて,ラヒマ・ボールドウィンは,著書「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」の中で, 次のように書いています.
生後7年に行われる驚くほどの成長は,筋肉や骨が成長し,それらを調節できるようになるという,絶え間のない変化が積み重なって達成されます.この年代には,子供は主に反復と動きと自分の周りにあるすべてを模倣することを通して学びます.静かに座っているのは,子供にとってほとんど不可能であるだけでなく,不健康なことです.子供はすべてを自分の体を通して理解したいのです.
幼い子供は模倣を通して学ぶのであれば,当然ながら,親が模範とならなければいけません.「何々しなさい」とか,「何々してはいけません」とか,口先だけで述べても全く意味がないわけです.すべてを自分の行動で示さなければなりません.
「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」の中で,ラヒマ・ボールドウィンは次のように書いています.
幼い子供を育てる上での本当の仕事は,親が自分自身を高める努力をすることです.それこそが,子供のスピリチュアルな飢えを満たす基本的なものです.大人が自分自身を成長させる努力を絶対に止めないということがです.私達の誰もが完全に自己実現した人間だとは言えませんが,私達が努力し,意識し,切望しているという事実は子供に伝わります.そしてそれは,完全な物質主義あるいは信心家ぶる態度よりも,はるかに価値のあるものです.このどちらも子供は見通します.虚偽として拒むことすらあります.
私達は最善を求めてできる限りの努力をするだけでなく,より良く行動するために努力することができます.というのは,小さな子供と共にいる親の一番大切な仕事は,自分自身を内的に成長させることだからです.小さな子供は,私達を完全で善いものとして受け入れます.そして子供が大きくなり,私達の不完全さを見るようになったとき,一番大切なことは,私達がより良くなろうと努力しているところを見ることです.内的に成長したいという私達の望みは,子供によって認知され,とても深い影響を与えます.
また,感謝も大切な感情です.子供が模倣しようとする世界において,子供が自分の周りの誰もが皆,世界から受け取るものに感謝することを目の当たりにできたら,子供の中に人間的な良い態度を育てる上で大切なことがなされたことになります.感謝は最初の7年間に属するものです.
以下,ルドルフ・シュタイナー著「子どもの教育」に収められている「霊学の観点からの子どもの教育」からの引用です.
歯の生え替わる七歳までに,人間はひとつの課題を遂行しなければならない.その課題は,人生の他の諸時期の課題とは本質的に異なっている.すなわち身体の諸器官を七歳までのこの時期に,特定の形態にまで発達させなければならない.それらの器官の組織構造に特定の方向づけを与えなければならない.成長はその後も続いていくが,その後の成長はすべて,七歳までに作り上げられた形態に基づいて行われる.形態は正しく作り出されたとき,正しい仕方で成長し続ける.歪んだ形態が作り出されたときには,歪んだまま成長していく.
幼児は物質環境の中の出来事を模倣する.そしてその模倣の中で,身体器官が特定の形態をとるまでに成長すると,その形態が一生保たれるのである.物質環境という言葉は,できるだけ広い意味に受け取る必要がある.幼児の周囲で物質的に働きかけてくるものだけではなく,幼児の感覚が知覚できるもの,物質空間から幼児の心に働きかけてくるもの,そういう周囲の一切の営みがこれに属する.幼児が見ることのできる道徳的,不道徳的な好意のすべて,優れたそして愚かしい行為のすべても,これに属する.
この方向で考えれば,子どもに正しい働きかけができるのは,道徳的なお説教や理屈にかなった説明などではなく,周囲の大人が子どもの眼の前で行う行為なのだ,ということがわかる.お説教では肉体の形態を作り出す働きにならない.
幼児が周囲に道徳的なものを見るとき,脳と呼吸・循環器系の中に,健全な道徳感覚のための身体的基礎が作り上げられる.もし七歳までの子どもが,馬鹿げた行動しか周囲に見ることがなかったとすれば,その頭脳の中に,将来愚かな行為をするのに相応しい形態を生じさせてしまう.
愛情に包まれて,健全な手本を模倣することができるとき,子どもは正しい世界の中にいる.子どもに模倣させられないような事柄を子どもの環境の中に生じさせないように,できる限りの努力を払わねばならない.「そんなことをしてはいけないよ」と子どもに言わなければならないようなことを,われわれ自身が子どもの前でしてはならない.
子どもの教育 著者: ルドルフ・シュタイナー 本書を読んでの感想は,第一に,やはりシュタイナー自身が書いたものを読まないとダメだということです. ラヒマ・ボールドウィン著「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」や,松井るり子著「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」,「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」や,京田辺シュタイナー学校の「小学生と思春期のためのシュタイナー教育―7歳から18歳、12年間一貫教育」など,いずれも素晴らしい本です.どれも一度は読んで損はしないと思う本です.でも,こんな教育の仕方もありますよ,ということではなく,その底流にある考え方を正確に知るには,シュタイナー自身の著作を読むのが一番です. 本書は,シュタイナー自身の手による教育の入門書です.「霊学の観点からの子どもの教育」に始まり,「人知学的な教育の特質」,「感覚の教育」,「教育と芸術」,「教育と道徳」,「教育のためのお祈り」と続きます.その後に,訳者である高橋氏による解説「生きる意志と子どもの教育」があります.いずれも非常に示唆に富む内容で,教育者はもちろん,子供を持つ親には是非一読を勧めたい内容です. ただ,「霊学の・・・」とあるように,スピリチュアル(霊的)な部分を大切に考えるシュタイナーの思想なので,いきなり本書を読むと,違和感を抱く人がいるかもしれません.そういう意味では,前述のようなシュタイナー教育の本を読んだ上で,その教育観に共感できたら,本書を読むといいのかもしれません. | |
親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから 著者: ラヒマ ボールドウィン 原著は,シュタイナー教育を志す母親達にバイブルと言われる本です.子供が生まれてから小学校に行くようになるぐらいまでを対象に,シュタイナー教育の考え方と具体的なアドバイスを与えてくれます.シュタイナー教育の指導者の資格を持つ翻訳者の力によるところも大きいのでしょうが,とても優しく書かれていて,読みやすいです. シュタイナーが正しいかどうかを評価するつもりはありませんし,仮に正しいとしても,すべての親がシュタイナー教育を志す必要があるとも言いません.でも,少なくとも,こういう考え方,こういう育児の方法があるのだということは知っておいて良いと思います.育児の全責任は最終的に親が負わなければならないわけですから,知りませんでしたで終わらせてしまうには,もったいないのではないかと思うのです. 是非,一度手にとって読んでみて下さい. |
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幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方 著者: 松井るり子 シュタイナー教育に魅せられ,母親としてシュタイナー幼稚園を体験した著者が,生まれてから小学校低学年頃までの育児について,自分の考えをまとめた本です.非常に優しい言葉遣いで書かれており,自分の意見やシュタイナーの意見を押し付けようとするのではなく,こういう育児もありますよと語りかけている雰囲気の本です. 育児の参考書として,またシュタイナー教育の入門書として,素晴らしい本だと思います.できれば,育児を始めるまでに読みたいですね. |
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七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育 著者: 松井るり子 米国に滞在した1年間,息子をシュタイナー幼稚園に通わせると共に,毎週1度の保育参加も経験した著者が,その幼稚園の様子を詳細に伝えてくれる本です.シュタイナー教育がどのようなものであるかを知りたい人には,非常に参考になるでしょう.大変読みやすく,押し付けがましくなく,幼稚園の様子,保育者の素晴らしさ,子供や大人の反応が素直に書かれていて,著者の感激がそのまま伝わってきます.シュタイナーなんて知らなくても,このような保育もあるのだと知るだけで大いに価値があります.育児に迷いがあるなら,是非とも読んで欲しい本です. |