あまりにも当然のことですが,誰でも100mを9秒台で走れるわけではありません.必死に努力しても無理なことはあります.スポーツに限らず,勉強もそうです.それほど努力しなくても,簡単にテストで抜群の成績を取れる人もいれば,必死に勉強してもそこそこの成績しか取れない人もいます.
まずは,違いがあることを認めることが大切だと思います.そうすれば,子供を追いつめたりしなくて済むでしょう.
一体,能力の差はどこから来るのでしょうか.
遺伝.確かに説得力のある理由です.足が速いのも,音痴なのも,絵が上手なのも,字が汚いのも,記憶力が良いのも,何でも遺伝の所為.そう片付けてしまえば,何も考えなくて済みます.諦めもつくというものです.しかし,本当にそうでしょうか?
音痴は遺伝か.子供が音痴になるのは,調子外れの子守歌を毎日毎日聴かされたからであって,生まれながらにして音痴なのではありません.遺伝ではなく,環境が音痴を育てるのです.いつも正しい音程の曲を聞かされていたなら,きっと音痴はならないでしょう.
運動神経は遺伝か.子供の運動神経が良くなるのは,運動好きの親と一緒に運動をよくするからであって,生まれながらにして運動神経が良いのではありません.遺伝ではなく,環境が運動神経を良くするのです.運動嫌いの親に体を動かすことなく育てられたなら,きっと運動神経は悪くなるでしょう.
日本語は遺伝か.子供が日本語を話すのは,日本語を話す親に育てられたからであって,生まれながらにして日本語の才能があるのではありません.遺伝ではなく,環境が日本語を使わせるのです.いつも綺麗な外国語を聞かされていたなら,きっと外国語を話すようになるでしょう.
このように,音痴にしても,運動神経にしても,日本語にしても,結果だけから何も考えずに判断すれば,子供の特性は遺伝で決まると結論づけたくなります.しかし,遺伝のように見えても,本当の原因は環境にあることが多いのです.もちろん,すべてが環境で決まるわけではありません.遺伝の影響は非常に大きいでしょう.それでも,親が環境の整備に本気で努めるなら,素晴らしい能力を持つ子供に育てることもできるはずです.そもそも,アホな親から賢い子が生まれないなら,人類は大昔に破滅していることでしょう.
ここから,乳幼児教育についての重要な結論が導かれます.つまり,できるだけ早い時期から,子供には多種多様な良いものを与えるべきだということです.運動,音楽,絵画,各国語,生活習慣,挨拶,その他何でも構いません.与えすぎになることはありません.無能な大人の基準で,小さな子供の可能性を否定する必要なんてないのです.子供はいくらでも吸収します.良いものも,そして悪いものも.子供に何を与えるか,その質と量を決めるのは親です.
「うちの子は...」と嘆く親は,その責任は自分にあることを知るべきです.遺伝にしろ,環境にしろ,いずれにせよ,良いのも悪いのも親なのです.それ以外にありません.
「三つ子の魂百まで」と言うように,3歳までの育児が決定的に大事だという主張をよく耳にします.3歳という具体的な数字はともかく,小さな子供に良い刺激を与えるべきだという考え方には大賛成です.実際,できるだけ良い刺激を与えようと努力もしています.具体的には,おもちゃ,絵本,語学などです.自分なりに勉強して,厳選したものを与えているつもりです.その他,動物園や植物園で本物に触れるというのも大事だと思っています.
この主張と合わせて,小さい子供へのしつけが大切だという主張があります.例えば,「0歳からの母親作戦―子どもの心と能力は0歳で決まる」で,ソニーの創業者である井深さんは,
中でも重要な刺激は,しつけです.この乳幼児期に正しくしつけられずに甘やかされて育った子供は,将来,道徳観の優れた自立した成人にはならないでしょう.乳幼児には理屈が分からないから,というのは理由になりません.乳幼児期に理解させる必要はなく,体に染み込ませることが大切なのです.
という趣旨のことを書かれています.このような主張に従って,厳しくしつけをされている家庭も多いのではないでしょうか.ほとんどを家庭の外で過ごしている父親はともかく,毎日子供と接し続ける母親は,厳しくしつける自分と怒られて萎縮する子供の姿に,心穏やかな日々を送れないのではないでしょうか.それが本当に良い育児でしょうか.
育児を始めたばかりの私には正解なんてわかりませんが,しつけに対する様々な考え方を知っておくことが大切だと思います.100%正解だと信じられる方針がない以上,様々な考え方に接し,その中から自分で選ぶしかないのですから.このような観点から,長谷川さんの「お母さんはしつけをしないで」が参考になります.タイトルに「しつけないで」とある通り,井深さんらの考え方とは随分と異なります.また,しつけはするとしても,「子どもの「花」が育つとき―21世紀をになう子どもたちへ!語り伝えたい、育児メッセージ」で内藤さんが書かれているように,「ダメ!」とか「いけません!」と高圧的に子供の自我を否定してしまうような言動は控え,「〜できるよね」あるいは「〜しようね」と語りかけたいものです.
子供に良い刺激を与えるということについて色々と書いてきました.幼い子供のしつけにしても,ビシビシしつけをしなさいという主張から,そんなことをしたらダメだという主張まで様々です.これが正しいというのを神様が教えてくれれば楽ですが,自分で選ぶしかない以上は,まずは色々な考え方に触れてみるのも必要でしょう.
幼い子供への接し方として非常に特徴的な方法を提案しているのがシュタイナーです.「シュタイナー教育」という言葉をどこかで聞いたことがあるかもしれません.シュタイナー教育は,幼児に限らず,生まれてから大人になるまでの成長過程全体を対象に,独自の教育方法を提案していますが,7歳までの幼児教育についても,非常に示唆に富む提案をしてくれています.
その基本となるのが,幼い子供は模倣を通して学ぶのだから,親が良い手本とならなければならない,という考え方でしょう.そして,7歳までの知的教育を否定し,自然との繋がりを重視して,ゆったりと育てることを勧めます.入門書として,「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」や「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」などがありますので,読まれると良いと思います.
お母さんはしつけをしないで 著者: 長谷川博一 子育てに悩む親へのカウンセリングで定評のある著者が,カウンセラーとしての豊富な経験に基づいて,「しつけ」について解説した本です.子供に生じている様々な問題(いじめ,不登校,ひきこもり,少年犯罪など)のほとんどが,実は,しつけの後遺症だということです.厳しすぎるしつけによって,子供が追い詰められた結果が,現在の悲惨な状況なのです. 本書は,「このようにしつけなさい!」と号令をかけるタイプの本ではありません.しつけが子供に与える影響,その後遺症,子供のためを思って厳しくしつけてしまう母親の気持ち,現代の子育て事情などを,具体的な例を示しながら解説し,母親はもっと気を楽にしていいのだというメッセージを送ります. 育児に奮闘中の人達はもちろん,,これから育児をする人達,そして育児をする人達の周囲の人達,みんなが読むと良いでしょう. |
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0歳からの母親作戦―子どもの心と能力は0歳で決まる 著者: 井深大 育児書ですが,特に母親の重要性が強調されています. およそ3歳までの子供は,何でも吸収してしまう素晴らしい能力を持っていて,この時期に,できるだけ良い刺激を与えなければならないというのが本書の主張です.良い刺激には,音楽,自然,絵画はもちろん,外国語なども含まれます.とにかく本物の刺激を与えることが重要で,乳幼児向けにアレンジされたものを与える必要はありません. 中でも重要な刺激は,しつけです.この乳幼児期に正しくしつけられずに甘やかされて育った子供が,将来道徳観の優れた自立した成人になるなどと,どうして言えるでしょうか.乳幼児には理屈が分からないから,というのは理由になりません.乳幼児期に理解させる必要はなく,体に染み込ませることが大切なのです.常に乳幼児に良い刺激を与えることができるのは母親だけであり,この時期の母親の態度次第で,子供の将来が決まると言っても過言ではありません. |
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幼稚園では遅すぎる―人生は三歳までにつくられる! 著者: 井深大 ソニーの創業者である井深大さんが,自ら取り組んできた乳幼児教育研究のまとめとして1971年に出版されたものです. 「0歳からの母親作戦」の前に書かれた育児書で,やはり,幼児教育における母親の重要性が強調されています.0〜3歳ぐらいまでの時期の乳幼児は,大人の想像を超える能力,刺激の吸収力を持っているため,とにかく良い刺激を多く与える必要があります.音楽や絵画など芸術の才能,記憶力,運動神経など,いずれの能力も遺伝で決まるものではありません.0〜3歳ぐらいまでの時期の育て方で決まるのです.このため,「うちの子は...」と愚痴をこぼす親は,子を責めるのではなく,自分の育て方を猛烈に反省すべきです. |
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子どもの「花」が育つとき―21世紀をになう子どもたちへ!語り伝えたい、育児メッセージ 著者: 内藤寿七郎 著者は小児科医であり,ソニー教育財団幼児開発センターで長年育児相談を担当してきた方です. 本書は,母親に読んでもらうことを目的として,育児について書かれています.主要なメッセージは,自我が芽生える1歳半から3歳までの時期に,子供の自我を否定するような言動をしてはいけないということです.具体的には,「ダメ!」とか「いけません!」と高圧的に否定するのではなく,「〜できるよね」あるいは「〜しようね」と子供に真剣に語りかけるべきだと書かれています. つい「ダメ!」と叱ってしまうお母さん,この本を是非読んでみて下さい. |
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親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから 著者: ラヒマ ボールドウィン 原著は,シュタイナー教育を志す母親達にバイブルと言われる本です.子供が生まれてから小学校に行くようになるぐらいまでを対象に,シュタイナー教育の考え方と具体的なアドバイスを与えてくれます.シュタイナー教育の指導者の資格を持つ翻訳者の力によるところも大きいのでしょうが,とても優しく書かれていて,読みやすいです. シュタイナーが正しいかどうかを評価するつもりはありませんし,仮に正しいとしても,すべての親がシュタイナー教育を志す必要があるとも言いません.でも,少なくとも,こういう考え方,こういう育児の方法があるのだということは知っておいて良いと思います.育児の全責任は最終的に親が負わなければならないわけですから,知りませんでしたで終わらせてしまうには,もったいないのではないかと思うのです. 是非,一度手にとって読んでみて下さい. |
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幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方 著者: 松井るり子 シュタイナー教育に魅せられ,母親としてシュタイナー幼稚園を体験した著者が,生まれてから小学校低学年頃までの育児について,自分の考えをまとめた本です.非常に優しい言葉遣いで書かれており,自分の意見やシュタイナーの意見を押し付けようとするのではなく,こういう育児もありますよと語りかけている雰囲気の本です. 育児の参考書として,またシュタイナー教育の入門書として,素晴らしい本だと思います.できれば,育児を始めるまでに読みたいですね. |
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七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育 著者: 松井るり子 米国に滞在した1年間,息子をシュタイナー幼稚園に通わせると共に,毎週1度の保育参加も経験した著者が,その幼稚園の様子を詳細に伝えてくれる本です.シュタイナー教育がどのようなものであるかを知りたい人には,非常に参考になるでしょう.大変読みやすく,押し付けがましくなく,幼稚園の様子,保育者の素晴らしさ,子供や大人の反応が素直に書かれていて,著者の感激がそのまま伝わってきます.シュタイナーなんて知らなくても,このような保育もあるのだと知るだけで大いに価値があります.育児に迷いがあるなら,是非とも読んで欲しい本です. |