絵本と「おはなし」

絵本は素晴らしいものじゃない!?

我が家には,結構たくさんの絵本があります.いろいろ調べて購入したもの,海外で購入したもの,書店で気に入ったもの,無料でもらった古本など様々です.絵本は子供にとって善いものだと漠然と思っていたのですが,次のような意見に出会い,びっくりしました.

赤ちゃんに絵本はいらない.いるのは両親の落ち着いた優しい声,小さな歌声,小鳥の声や虫の声,普通の生活音,そして静けさ.所詮,絵本は「おはなし」のできない者のための方便に過ぎない.おはなしができるなら,その方がずっと良い.

「おはなし」のできない私にとっては,まさに絵本は便利な道具なのかもしれないなと思いました.ちなみに,これは,松井るり子さんが「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」に書かれている意見です.さらに,絵本の選び方について,次のように書かれています.

絵本は大人が自分の楽しみのために読んで,子供はそのおこぼれに預かるだけと考えた方が,バランスが取れる.

絵本の欠点

絵本は「おはなし」のできない者のための方便であり,子供には,絵本を読んであげるよりも,おはなしをしてあげた方がよいとのことですが,では,絵本の何が問題なのでしょうか.

絵本を読み聞かせることと「おはなし」を語り聞かせることの違いについて,松井るり子さんは,著書「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」の中で,次のように書かれています.

子供達がお話の中の場面を好きなように心の中に描いているところに,画家による強烈な完成品を与えてしまうのは大変乱暴なことと考えられている.絵本はお話のイメージをふくらませてくれるが,イメージを限定する面があることも見落としてはならない.

ちょっと補足しておくと,「考えられている」というのは,シュタイナー教育では,そう考えられているということです.例えば,似たような比較として,テレビと小説の違いはよく指摘されます.ハリー・ポッターでも指輪物語でも何でも構いませんが,小説を読むと様々な場面を自分で想像するのに対して,テレビや映画だと,与えられた映像を受け入れるしかありません.想像力を働かせる余地はないわけです.これと同じことが,おはなしの語り聞かせと絵本の読み聞かせにもあてはまるというわけです.言われてみれば,確かにそうですね.

語り聞かせ

シュタイナー幼稚園の様子を,松井るり子さんは「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」の中で次のように描写しています.

「7歳までは知的なことは一切教えない」というシュタイナーの方針に従って,ほとんどの子は字が読めない.年間を通じて1度だけ読み聞かせの1週間があったが,あとは同じ昔話が数週間続く語り聞かせがなされた.

このように,読み聞かせではなく語り聞かせが大切にされる背景には,「すべての成果は物語る仕方そのものにかかっている.だからこそ,お話をする代わりに,本を読めば済むと思ってはならない.」という考え方があるそうです.

ここで,「同じ昔話が数週間続く語り聞かせがなされた」とあります.次々と新しい物語を語り聞かせるのではなく,1つの物語を何度も何度も語り聞かせるのにも,ちゃんとした理由があるそうです.おはなしをする目的は,たくさんの筋書きを知識として与えるためでも,ハラハラドキドキの娯楽を与えるためでもなく,子供の心を癒すためであり,だからこそ,子供が安心して聞けるように,同じ話を何度でも繰り返すのだそうです.

また,語り聞かせの方法も特徴的です.

シュタイナーの教育者がお話を語るときは,「感情を抑えて淡々と」語るように勧められる.私も自分で読んでみて,感情をたっぷり込めるよりも,淡々と読んだ方が子供の心にすっと入っていくような気がする.ただし,心を込めて.

もちろん,シュタイナー学校で絵本が禁書になっているというわけではありません.例えば,松井さんは,エルサ・ベスコフの絵本が大好きだと書いています.

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育児について書かれた,お勧めできる本

育児に関する知識を身に付けるための本

親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから

親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから

著者: ラヒマ ボールドウィン
出版: 学陽書房 (2000/11)
定価: ¥1,680
ISBN: 431366016X

原著は,シュタイナー教育を志す母親達にバイブルと言われる本です.子供が生まれてから小学校に行くようになるぐらいまでを対象に,シュタイナー教育の考え方と具体的なアドバイスを与えてくれます.シュタイナー教育の指導者の資格を持つ翻訳者の力によるところも大きいのでしょうが,とても優しく書かれていて,読みやすいです.

シュタイナーが正しいかどうかを評価するつもりはありませんし,仮に正しいとしても,すべての親がシュタイナー教育を志す必要があるとも言いません.でも,少なくとも,こういう考え方,こういう育児の方法があるのだということは知っておいて良いと思います.育児の全責任は最終的に親が負わなければならないわけですから,知りませんでしたで終わらせてしまうには,もったいないのではないかと思うのです.

是非,一度手にとって読んでみて下さい.

幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方

幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方

著者: 松井るり子
出版: 学陽書房 (1998/10)
定価: ¥1,470
ISBN: 4313660097

シュタイナー教育に魅せられ,母親としてシュタイナー幼稚園を体験した著者が,生まれてから小学校低学年頃までの育児について,自分の考えをまとめた本です.非常に優しい言葉遣いで書かれており,自分の意見やシュタイナーの意見を押し付けようとするのではなく,こういう育児もありますよと語りかけている雰囲気の本です.

育児の参考書として,またシュタイナー教育の入門書として,素晴らしい本だと思います.できれば,育児を始めるまでに読みたいですね.

七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育

七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育

著者: 松井るり子
出版: 学陽書房 (1994/07)
定価: ¥1,427
ISBN: 4313630279

米国に滞在した1年間,息子をシュタイナー幼稚園に通わせると共に,毎週1度の保育参加も経験した著者が,その幼稚園の様子を詳細に伝えてくれる本です.シュタイナー教育がどのようなものであるかを知りたい人には,非常に参考になるでしょう.大変読みやすく,押し付けがましくなく,幼稚園の様子,保育者の素晴らしさ,子供や大人の反応が素直に書かれていて,著者の感激がそのまま伝わってきます.シュタイナーなんて知らなくても,このような保育もあるのだと知るだけで大いに価値があります.育児に迷いがあるなら,是非とも読んで欲しい本です.

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