ジョン・ローズモンドは「子供とテレビ」という文章で,子供がテレビを見ているところを観察してみると,子供が何をしているか,あるいは何をしていないかが分かると言っています.子供は次に挙げるようなことをしていないそうです.
確かに,そのように思います.ローズモンドは,これらの能力の欠如は,学習障害の子供の特徴であると言っています.テレビが学習障害の唯一の原因だというわけではありませんが,関係がないとは決して言えないでしょう.
さらに,「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」の中で,松井るり子さんは,子供の視力は小学校1年生ぐらいで完成すると言われており,成長期の目に多大なストレスをかけたときの害は,出来上がった目に対するよりも深刻であると指摘しています.
シュタイナー教育の先生の資格を持つラヒマ・ボールドウィンは,著書「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」の中で, 次のように書いています.
多くの親たちが「子供には教育的なテレビ番組だけしか見せていません」と言います.しかし,テレビを見ている子供は身体を動かしません.そして,テレビの画面から与えられる感覚的刺激の質は貧しいものです.テレビ番組の内容にかかわらず,これらのことが,幼い子供にテレビを見せること自体を問題のあるものにしているのです.テレビは,大人にとっては情報源そして気晴らしとして大切なものでしょう.けれども,子供は大人と異なった発達段階にいるのです.
このように,テレビ番組の質以前の問題として,テレビを見ることそのものが問題であると指摘している人は少なくありません.松井るり子さんの「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」にも,人間には1つの絵をじっと見ていたいという欲求があるのに,テレビのように次々と絵を取り替えられると,ストレスがたまり暴力的になる,と書かれています.
また,マリー・ウィンは,著書「テレビという麻薬」において,「子供がテレビで何を見るかではなく,テレビを見ること自体が子供にとって害なのです.」と強調しています.テレビを見ることによって,右脳と左脳がバランスの取れた形で発達できなくなるというのです.左脳は言語的,合理的思考をコントロールします.テレビ視聴者はイメージの洪水にさらされ,その中では考える必要がなく,あるいは考える時間さえないのです.
それでも,教育番組の良さを主張する人もいることでしょう.しかし,「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」で指摘されているように,変化する視点や画像を解釈する能力は11歳ぐらいにならないと身に付かず,それよりも幼い子供は,最も良質な教育番組を見たとしても,基本的に内容を理解できないという研究結果もあります.
松井るり子さんは,著書「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」の中で,テレビが子供に与える影響について次のように書かれています.
テレビのおかげで様々な疑似体験ができるのは素敵なことですが,子供は本来体験できる以上の喜怒哀楽に心を掻き乱されています.子供が刺激の強い虚像に翻弄されて,泣ける間はまだしも,やがてそれに慣れきってしまうのは恐ろしいことです.刺激に動じないよう,隣人の喜怒哀楽に心を閉ざすよう,テレビを使って一生懸命教育していることになります.小学校に入ってから「この子はなぜ先生の話をきちんと聞けないのか」とイライラしたら,小さいときからテレビによって聞き流し癖を学ばせた自分に怒るべきなのです.
さらに,「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」においても,テレビを見ると品のない言葉遣いがうつるとか,アニメ番組の戦いごっこを真似て困るとか,そういう問題ではなく,幼い子供を虚構に慣れさせて,「すべてにたかをくくって生きなさい」と教育してしまうことを警戒しなくてはならないと指摘しています.
「テレビを見ないと仲間外れにされる」という心配は,「仲間外れって寂しく怖い.我が子をそのような目に遭わせたくない.」という気持ちから来るのでしょう.しかし,そういう考え方こそが,「みんなと違う奴は仲間外れにされても仕方ない.」と子供に思わせる遠因になっていないでしょうか.つまり,「本当はお前にテレビを見せたくなかったが,仲間外れにならないようにと思って,我慢して見せたのだ.そういう努力をしてこなかった奴は仲間外れにしてやれ」と言っているように聞こえます.
これは,松井るり子さんが「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」の中で書かれていることです.結局,親がテレビを好きだから子供にもテレビを見せている,というのが実態ではないでしょうか.子供にテレビを見せているのは,最終的には親の選択なのに,それを「子供同士で話に入っていけないと心配だから」という言い訳で隠さないで欲しいというのが,松井さんの意見です.
テレビに限らず,ゲームなどでも,子供が仲間外れになるのが心配という理由で,しぶしぶ(?)子供に与えている親も少なくないのではないかと思います.一度,その是非について,じっくりと考えてみる必要があるのではないでしょうか.
テレビやテレビゲームが良くないとしても,それらを完全に否定し,全く触れることもなく過ごすことは難しいのが現実でしょう.松井るり子さんは,著書「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」の中で,テレビゲームの与え方について,次のように書いています.
子供が「テレビゲームをしたい」と言い出したとき,中身を知らないまま,「みんながやっているから」,「面白いから」,「持っていないのは僕1人だから」という言葉に乗せられていないでしょうか.ゲームソフトを欲しがるときはお金だけ渡して,「これで機嫌良く暇潰してくれるなら楽」と思っていないでしょうか.中身も知らずに「子供がやりたいと言ったから」というのは,見知らぬ他人に子供を預けっぱなしにするようなものです.見極めは親がしてやらないといけません.
大人の判断力でゲームに関わる子供を見守る必要があります.子供達の世界でゲームは既に生き始めています.折角ここにあるものは大いに利用しましょう.親子の対話の道具として使うと面白いでしょう.
ただし,テレビゲームを子供に与えるタイミングについては,釘を刺しています.
小学校3年生以下では,以上の議論は成り立ちません.9歳以下の子供にはテレビゲームなど論外です.
私も自分がテレビゲームやコンピュータゲームが大好きだったので,それらすべてを禁止しようとは思いません.シミュレーションゲームの三国志や,ロールプレイングゲームのファイナルファンタジーなどはやりまくりました.中学生の頃に,初代のファミコンを友人宅で遊ばせてもらうようになってから,20歳ぐらいまではテレビゲームをしていたと思います.すべてを禁止しなくても,内容と時間を管理することが大切だろうと思います.
「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」の中で,子供にテレビを見せることについて,ラヒマ・ボールドウィンは,次のように締めくくっています.
10歳あるいは11歳より前に,子供のテレビ視聴時間を厳しく制限することは,恐らくあなたが子供に贈ることのできる最大の贈り物の1つです.
ちなみに,我が家では,テレビは見せないことにしています.
親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから 著者: ラヒマ ボールドウィン 原著は,シュタイナー教育を志す母親達にバイブルと言われる本です.子供が生まれてから小学校に行くようになるぐらいまでを対象に,シュタイナー教育の考え方と具体的なアドバイスを与えてくれます.シュタイナー教育の指導者の資格を持つ翻訳者の力によるところも大きいのでしょうが,とても優しく書かれていて,読みやすいです. シュタイナーが正しいかどうかを評価するつもりはありませんし,仮に正しいとしても,すべての親がシュタイナー教育を志す必要があるとも言いません.でも,少なくとも,こういう考え方,こういう育児の方法があるのだということは知っておいて良いと思います.育児の全責任は最終的に親が負わなければならないわけですから,知りませんでしたで終わらせてしまうには,もったいないのではないかと思うのです. 是非,一度手にとって読んでみて下さい. |
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幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方 著者: 松井るり子 シュタイナー教育に魅せられ,母親としてシュタイナー幼稚園を体験した著者が,生まれてから小学校低学年頃までの育児について,自分の考えをまとめた本です.非常に優しい言葉遣いで書かれており,自分の意見やシュタイナーの意見を押し付けようとするのではなく,こういう育児もありますよと語りかけている雰囲気の本です. 育児の参考書として,またシュタイナー教育の入門書として,素晴らしい本だと思います.できれば,育児を始めるまでに読みたいですね. |
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七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育 著者: 松井るり子 米国に滞在した1年間,息子をシュタイナー幼稚園に通わせると共に,毎週1度の保育参加も経験した著者が,その幼稚園の様子を詳細に伝えてくれる本です.シュタイナー教育がどのようなものであるかを知りたい人には,非常に参考になるでしょう.大変読みやすく,押し付けがましくなく,幼稚園の様子,保育者の素晴らしさ,子供や大人の反応が素直に書かれていて,著者の感激がそのまま伝わってきます.シュタイナーなんて知らなくても,このような保育もあるのだと知るだけで大いに価値があります.育児に迷いがあるなら,是非とも読んで欲しい本です. |