ここに書かれている内容は,ある「母と子の教室」で彼女が聞いてきたことを参考にしています.
ここで言う「自我」とは,要するに,子供の自己主張のことです.
生まれたばかりの子供は,自分は母親と同じ,つまり一心同体だと思っていて,自分は母親とは異なる別の人間だなんて思っていないそうです.大人からすると奇妙に聞こえますが,ちょっと前までは実際に母親とは一心同体だったわけですから,生まれてすぐ,自分は1人の個人だなんて気付くはずはありませんね.しばらくは,そんな感覚が続きます.そして,生活を続けていく中で,徐々に,自分は他の人とは違う気持ちを持っているのだと気付くわけです.
自分は他人とは違うんだと気付けば,当然,自分の気持ちを他人に伝えようとします.これが子供の自己主張,すなわち自我の現れです.親が何を言っても,「イヤ」と答える.これなんかが典型的ですね.
子供が「イヤイヤ」と言うようになったら要注意です.というのは,その時期に,どのように子供に接するかによって,子供の性格が大きく変わるからです.
でも,「イヤイヤ」が子供の最初の自己主張というわけではありません.母親がリラックスしていると胎児がよく動く,母親が仕事をしているとお腹が張る,などは胎児の自己主張です.例えば,お腹が張るというのは,胎児がお母さんに「休んでよ!」と言っているそうです.
その後も,様々な形で,子供は自分の気持ちを親に伝えようとします.そんな子供の気持ちを,しっかりと受け止めてあげることが親の務めであることは当然ですが,特に大切だと言われるのが,「イヤイヤ」の時期です.
一般的には,2歳のころが「イヤイヤ」の時期,3歳のころが反抗期と言われます.それでは,なぜ,2歳くらいの子供は「イヤ」と言うのでしょうか.
まず,親として理解しておきたいのは,子供は親を困らせようとか,意地悪をしてやろうとか,そういう悪意を持って,「イヤ」と言っているのではないということです.自我が芽生えてきた子供は,自分の気持ちを,自分は親とは違うんだよということを,伝えようとしているだけなのです.ところが,自分の気持ちをうまく表現できるほどには,脳は発達していませんし,もちろん言葉も話せません.そこで,「イヤ」という単純な言葉で,自分の気持ちを表現しようとするのです.
つまり,「イヤ」というのは,子供にとって精一杯の気持ちの表現なのです.ですから,「イヤ」と言う子供に対して,親が聞く耳を持たないという態度を取れば,子供は,「親は自分の気持ちをわかろうとしてくれない」,「自分は親に認めてもらえない」と感じてしまうわけです.親しか頼れない子供にとって,親が自分を理解しようとしてくれないことは,とても辛いに違いありません.もし,そのような態度を親が取れば,子供の心は傷付いてしまうことでしょう.
そして,2歳の頃に受けた心の傷は,一生,その子供を苦しめることになります.ですから,「イヤイヤ」の時期が非常に大切なのです.
「三つ子の魂百まで」と言われるように,3歳までの育児が決定的に大切だという主張をよく耳にします.人間は,経験的に,2歳前後の子育てが大切だということを学んできたのでしょうね.
とにかく,親子の信頼関係を作ることを心掛けましょう.
子供を尊重してあげることが大切です.その積み重ねで,子供は親を信頼するのです.2歳前後の「イヤイヤ」の時期に自我を抑え付けてしまうと,抑え付けられた自我が思春期の反抗期に爆発してしまう恐れがあります.
とても評判の良かった子供が豹変し,非行に走る.これは決して珍しい話ではありません.子供は,自分の気持ちを押し殺してでも,親の期待に精一杯応えようと頑張るものです.そんな健気な子供の気持ちを顧みず,親の満足のみを追い求める結果,子供の心が傷付けられ,ついには耐えきれなくなってしまうのです.このあたりの事情については,長谷川さんの「お母さんはしつけをしないで」に詳しく書かれていますので,参考にして下さい.厳しすぎるしつけによって子供が追い詰められた結果が,現在の悲惨な社会状況なのだということを示しています.
自我が芽生えてきた,2歳前後の「イヤイヤ」の時期には,とにかく,子供の気持ちを尊重してあげることが大切です.何に対しても「イヤ」と言うぐらいですから,当然,命令や禁止を嫌がります.ですから,人に危害を加える,他人に迷惑をかける,危険なことをするなど,どうしてもダメだというとき以外は,「ダメ」と言わないようにしましょう.いつも「ダメ」と言っていると,子供は「ダメ」を聞き慣れてしまい,いずれ効果がなくなります.2歳前後では,グッと我慢して,理屈が分かるようになる4歳頃から「ダメ」を使うようにしましょう.
また,絶対にダメだというときには,毅然と「ダメ!」と言うようにしましょう.中途半端はいけません.絶対にダメなものは絶対にダメだと,子供に分からせましょう.子供は親の気持ちを巧みに察知します.このため,親に迷いがあれば,それも分かってしまうのです.親は毅然とした態度を取らなければなりません.
もちろん,一回「ダメ!」と言うだけでは,子供は理解してくれないでしょう.子供はまだ理屈が分かりませんから,何度も同じことを繰り返します.そして,「これをするとママ(パパ)が怖い顔をする」という経験を繰り返すことで,「これは止めておこう」と子供は判断するわけです.その過程では,「これくらいだと,ママ(パパ)は怖い顔をするかな?」と親を試すようなこともするでしょう.きっちりとしつけするためには,ダメなこととダメではないことを明確に分けて,親が毅然と対処しなければなりません.そうしないと,子供は混乱するばかりです.
小児科医であり,ソニー教育財団幼児開発センターで長年育児相談を担当してきた内藤さんは,その著書「子どもの「花」が育つとき―21世紀をになう子どもたちへ!語り伝えたい、育児メッセージ」で,「ダメ!」とか「いけません!」と高圧的に子供の自我を否定してしまうような言動は控え,「〜できるよね」あるいは「〜しようね」と語りかけましょうと書かれています.自我が芽生える1歳半から3歳までの時期に,子供の自我を否定するような言動をしてはいけないのです.
もちろん,しつけは大切です.しかし,悪いことをしたら叱るというのでは,良いしつけにはなりません.
しつけの基本は,親が手本を見せることです.子供は何でも親のすることを真似しようとします.ですから,子供にして欲しいと思うことを,親が実践すれば良いのです.自分がきちんと挨拶をしないのに,子供には「ほら,挨拶をしなさい」と言う.こういうのは最低ですね.
上述の内藤さんは,「2歳 しからないでもしつけができる」で,大切なのは親が子供を信頼することだと書かれています.親が子供を信頼していれば,子供は2歳でも約束をきちんと守れるのだそうです.しつけと称して,子供の気持ちを無視して,「ダメ!」と頭ごなしに子供を否定してはいけません.そのような親の言うことを,子供が素直に聞くはずはないですよね.無理に子供を親の思う通りにさせようとするのではなく,子供を信じることが大切なのです.
しつけについては,「子供のしつけ方.良いしつけ,悪いしつけ.」に詳しく書いていますので,そちらも参考にして下さい.
自我が芽生えてきた子供への接し方が大切なことは理解できた.でも,具体的にどうしたらいいの? 育児をしている本人には切実な問題です.いくつか,まとめておきましょう.
子供の気持ちを尊重すべきだとは言っても,親の気持ちや時間に余裕がないときだってあります.そのようなときは,後からでもよいので,「さっきは余裕がなかったから」と子供に伝えましょう.素直に謝りましょう.
そんなことを言っても子供は理解できないと思いますか.そんな風に子供を馬鹿にしていては,まともな子育てなんてできません.ここでも,大切なのは親が子供を信頼することだと繰り返し指摘しています.子供に謝るのは嫌ですか.そんな親の態度を見て,子供は育つのです.人に謝ることのできない子供にしたいのですか.子供は親の鏡です.
「自分でする」と言うときも同じです.急いでいるときなどには,「急いでいるから今はさせてね」と子供に説明しましょう.また,あれもこれもしたいというときには,「今日はこれをしてね」と,全部を子供にさせなくても,何かを任せてあげれば良いでしょう.
子供が友達とおもちゃの取り合いをしているときは,相手を叩いたり,おもちゃを投げつけたり,危険なことをしないかぎり,放っておいて構いません.遊びたいおもちゃを他の子が使っているとか,おもちゃを横取りされたなど,子供はこの時期に,様々なことを経験して,色々な気持ちを持つようになります.そのような気持ちを自分で処理する力(セルフコントロールの力)を,子供に身に付けさせてあげる必要があります.ですから,親が干渉しすぎてはいけません.子供を信じてあげて下さい.子供は自分で解決します.
さて本題です.「イヤイヤ」の時期,子供が「イヤ」と言うときに,親はどのように接すれば良いのでしょうか.もちろん,「うるさい!言うこと聞きなさい!」ではダメです.
例えば,
のように,根気よく,子供と対話しましょう.しばらく間を空けて待ってみるのも効果的です.とにかく,抑え付けて無理矢理言うことを聞かせるというのは避けましょう.自我を尊重せずに強引にやっていると,ますます激しく抵抗するようになります.
もちろん,「そうか.□□ちゃんはイヤなのね.」と言うときに,口先だけで言ってはいけません.それでは逆効果です.「イヤ」という子供の気持ちを受け止め,共感してあげなくてはいけません.
「子供のしつけ方.良いしつけ,悪いしつけ.」にも書きましたが,我が家での実践について,紹介しておきましょう.
我が家では,2歳の長男に対して,自我を尊重したしつけを行うことにしています.母親と父親とで話し合って,そういう方針で育てることで合意しました.育児に関して夫婦で意思疎通ができていないようであれば,まずは,そこの改善からでしょうか.
したがって,我が家では,「ダメ!」とか「○○しなさい!」とか,頭ごなしに命令したり,叱りつけたりするのではなく,子供が自主的にしたいと思えるように導くことにしています.そう思うまで気長に待つことにしました.
「そんなこと言っても,2歳の子供なんて親の言うことなんて聞かないよ.」と思われる方もいるでしょうが,実際の子供の反応は予想以上のものでした.例えば,暑くなってきて,子供が冷蔵庫から氷を勝手に取り出して食べるようになったのですが,「氷は1つだけね.1つ食べたら終わりね.」と言い聞かせると,ちゃんと1つだけで止めるんです.「こら,食べるな!」なんて叱りつけていたら,「欲しい.欲しい.」と泣き叫ぶだけで,何も解決しなかったでしょう.おやつ(当然我が家ではスナック菓子などは一切与えていない)についても同様で,「これで最後ね.」と言っておけば,それで終わりだと納得してくれます.
また,お風呂に入るのを嫌がることも多いのですが,無理にお風呂に入れても,泣き叫ぶだけで,入れてからが大変です.ところが,「お風呂でゴシゴシ洗わないと,体カユイカユイになっちゃうから,お風呂に入ろうか.」みたいに言うと,「はい」と返事して,自分でお風呂へ向かいます.お風呂に入ってからも,頭を洗うのを嫌がったりしますが,そんなときも,
みたいな遣り取りを毎日のように繰り返しています.1回や2回では「はい」なんて良い返事は返ってきませんが,根気よく続けていると,いずれスッと両手を伸ばして,洗ってもらうために親の方へやって来ます.時々,子供が自分から頭を洗ってもらおうと思うまで待つために,子供と二人で浴室に延々と閉じこもり,のぼせてしまうこともありますが...まあ,それぐらい,気長に待つようにしています.
お母さんはしつけをしないで 著者: 長谷川博一 子育てに悩む親へのカウンセリングで定評のある著者が,カウンセラーとしての豊富な経験に基づいて,「しつけ」について解説した本です.子供に生じている様々な問題(いじめ,不登校,ひきこもり,少年犯罪など)のほとんどが,実は,しつけの後遺症だということです.厳しすぎるしつけによって,子供が追い詰められた結果が,現在の悲惨な状況なのです. 本書は,「このようにしつけなさい!」と号令をかけるタイプの本ではありません.しつけが子供に与える影響,その後遺症,子供のためを思って厳しくしつけてしまう母親の気持ち,現代の子育て事情などを,具体的な例を示しながら解説し,母親はもっと気を楽にしていいのだというメッセージを送ります. 育児に奮闘中の人達はもちろん,これから育児をする人達,そして育児をする人達の周囲の人達,みんなが読むと良いでしょう. |
|
0歳からの母親作戦―子どもの心と能力は0歳で決まる 著者: 井深大 育児書ですが,特に母親の重要性が強調されています. およそ3歳までの子供は,何でも吸収してしまう素晴らしい能力を持っていて,この時期に,できるだけ良い刺激を与えなければならないというのが本書の主張です.良い刺激には,音楽,自然,絵画はもちろん,外国語なども含まれます.とにかく本物の刺激を与えることが重要で,乳幼児向けにアレンジされたものを与える必要はありません. 中でも重要な刺激は,しつけです.この乳幼児期に正しくしつけられずに甘やかされて育った子供が,将来道徳観の優れた自立した成人になるなどと,どうして言えるでしょうか.乳幼児には理屈が分からないから,というのは理由になりません.乳幼児期に理解させる必要はなく,体に染み込ませることが大切なのです.常に乳幼児に良い刺激を与えることができるのは母親だけであり,この時期の母親の態度次第で,子供の将来が決まると言っても過言ではありません. |
|
幼稚園では遅すぎる―人生は三歳までにつくられる! 著者: 井深大 ソニーの創業者である井深大さんが,自ら取り組んできた乳幼児教育研究のまとめとして1971年に出版されたものです. 「0歳からの母親作戦」の前に書かれた育児書で,やはり,幼児教育における母親の重要性が強調されています.0〜3歳ぐらいまでの時期の乳幼児は,大人の想像を超える能力,刺激の吸収力を持っているため,とにかく良い刺激を多く与える必要があります.音楽や絵画など芸術の才能,記憶力,運動神経など,いずれの能力も遺伝で決まるものではありません.0〜3歳ぐらいまでの時期の育て方で決まるのです.このため,「うちの子は...」と愚痴をこぼす親は,子を責めるのではなく,自分の育て方を猛烈に反省すべきです. |
|
子どもの「花」が育つとき―21世紀をになう子どもたちへ!語り伝えたい、育児メッセージ 著者: 内藤寿七郎 著者は小児科医であり,ソニー教育財団幼児開発センターで長年育児相談を担当してきた方です. 本書は,母親に読んでもらうことを目的として,育児について書かれています.主要なメッセージは,自我が芽生える1歳半から3歳までの時期に,子供の自我を否定するような言動をしてはいけないということです.具体的には,「ダメ!」とか「いけません!」と高圧的に否定するのではなく,「〜できるよね」あるいは「〜しようね」と子供に真剣に語りかけるべきだと書かれています. つい「ダメ!」と叱ってしまうお母さん,この本を是非読んでみて下さい. |
|
2歳 しからないでもしつけができる 著者: 内藤寿七郎 著者は小児科医であり,ソニー教育財団幼児開発センターで長年育児相談を担当してきた方です. 大切なのは,親が子供を信頼することです.親が子供を信頼していれば,子供は2歳でも約束を守れます.子供の気持ちを無視して,「ダメ!」と頭ごなしに子供を否定していませんか.そんな親の言うことを子供が聞くはずないですよね.無理に親の思う通りにさせようとするのではなく,子供を信じることが大切なのです. つい「ダメ!」と叱ってしまうお母さん,この本を是非読んでみて下さい.本書では,しつけの他に,食事についても書かれています. |
|
親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから 著者: ラヒマ ボールドウィン 原著は,シュタイナー教育を志す母親達にバイブルと言われる本です.子供が生まれてから小学校に行くようになるぐらいまでを対象に,シュタイナー教育の考え方と具体的なアドバイスを与えてくれます.シュタイナー教育の指導者の資格を持つ翻訳者の力によるところも大きいのでしょうが,とても優しく書かれていて,読みやすいです. シュタイナーが正しいかどうかを評価するつもりはありませんし,仮に正しいとしても,すべての親がシュタイナー教育を志す必要があるとも言いません.でも,少なくとも,こういう考え方,こういう育児の方法があるのだということは知っておいて良いと思います.育児の全責任は最終的に親が負わなければならないわけですから,知りませんでしたで終わらせてしまうには,もったいないのではないかと思うのです. 是非,一度手にとって読んでみて下さい. |
|
幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方 著者: 松井るり子 シュタイナー教育に魅せられ,母親としてシュタイナー幼稚園を体験した著者が,生まれてから小学校低学年頃までの育児について,自分の考えをまとめた本です.非常に優しい言葉遣いで書かれており,自分の意見やシュタイナーの意見を押し付けようとするのではなく,こういう育児もありますよと語りかけている雰囲気の本です. 育児の参考書として,またシュタイナー教育の入門書として,素晴らしい本だと思います.できれば,育児を始めるまでに読みたいですね. |
|
七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育 著者: 松井るり子 米国に滞在した1年間,息子をシュタイナー幼稚園に通わせると共に,毎週1度の保育参加も経験した著者が,その幼稚園の様子を詳細に伝えてくれる本です.シュタイナー教育がどのようなものであるかを知りたい人には,非常に参考になるでしょう.大変読みやすく,押し付けがましくなく,幼稚園の様子,保育者の素晴らしさ,子供や大人の反応が素直に書かれていて,著者の感激がそのまま伝わってきます.シュタイナーなんて知らなくても,このような保育もあるのだと知るだけで大いに価値があります.育児に迷いがあるなら,是非とも読んで欲しい本です. |