「三つ子の魂百まで」と言われるように,3歳までの育児が決定的に大切だという主張をよく耳にします.皆さんもそうでしょう.ここでいう育児には,もちろん,しつけも含まれます.しつけが大切だという主張には,誰も異論はないと思います.私も大賛成です.しかし,問題は,しつけの方法です.
幼い子供にこそ,厳しくしつけをするべきであるという主張があります.例えば,「0歳からの母親作戦―子どもの心と能力は0歳で決まる」で,ソニーの創業者である井深さんは,およそ3歳までの子供は何でも吸収してしまう素晴らしい能力を持っていて,この時期にできるだけ良い刺激を与えなければならないと主張されています.そして,
中でも重要な刺激は,しつけです.この乳幼児期に正しくしつけられずに甘やかされて育った子供は,将来,道徳観の優れた自立した成人にはならないでしょう.乳幼児には理屈が分からないから,というのは理由になりません.乳幼児期に理解させる必要はなく,体に染み込ませることが大切なのです.
という趣旨のことを書かれています.このような主張に従って,厳しくしつけをされている家庭も多いのではないでしょうか.ほとんどを家庭の外で過ごしている父親はともかく,毎日子供と接し続ける母親は,厳しくしつける自分と怒られて萎縮する子供の姿に,心穏やかな日々を送れないのではないでしょうか.それが本当に良い育児でしょうか.
厳しくしつけをしようとすれば,何かにつけて子供を怒ることになってしまいます.いつも怒られてばかりの子供が,のびやかな明るい子供に育つと思うのは,あまりに想像力が豊かすぎます.きちんと現実を見つめましょう.
怒らないで,どうやってしつけができるのか.そう感じる親も多いはずです.小さな子供なんて,親がしてほしくないことばかりするわけですから.
小児科医であり,ソニー教育財団幼児開発センターで長年育児相談を担当してきた内藤さんは,その著書「子どもの「花」が育つとき―21世紀をになう子どもたちへ!語り伝えたい、育児メッセージ」で,「ダメ!」とか「いけません!」と高圧的に子供の自我を否定してしまうような言動は控え,「〜できるよね」あるいは「〜しようね」と語りかけましょうと書かれています.自我が芽生える1歳半から3歳までの時期に,子供の自我を否定するような言動をしてはいけないという教えです.
また,内藤さんは,「2歳 しからないでもしつけができる」で,大切なのは親が子供を信頼することだと書かれています.親が子供を信頼していれば,子供は2歳でも約束をきちんと守れるのだそうです.しつけと称して,子供の気持ちを無視して,「ダメ!」と頭ごなしに子供を否定していないでしょうか.そのような親の言うことを,子供が素直に聞くはずはないですよね.無理に子供を親の思う通りにさせようとするのではなく,子供を信じることが大切なのです.
世の中には,様々な育児書があります.そして,好き勝手な育児論やしつけ論を述べてくれます.本に理想を書くのは簡単です.でも,現実に,思うようにはならない子供を前にして,どのように接すればよいのかと悩んでいる親には,そんなものは役に立たないことが多いものです.
子供ばかりか,自分自身まで追い込んでしまっては,良い育児なんてできるはずもありません.気持ちを楽にすることも大切です.このような観点から,長谷川さんの「お母さんはしつけをしないで」が参考になります.タイトルに「しつけをしないで」とある通り,井深さんらの考え方とは随分と異なります.本書は,子供にどうしても厳しくしてしまう母親,育児に悩む母親に,もっと母親は気を楽にしていいのだというメッセージを送ります.また,厳しすぎるしつけによって,子供が追い詰められた結果が,現在の悲惨な社会状況なのだということを示します.
しつけの方法について,いろいろな本を読んで勉強した結果,2歳近くになった長男に対しては,自我を尊重したしつけを行うことにしました.つまり,「ダメ!」とか「○○しなさい!」とか,頭ごなしに命令したり,叱りつけたりするのではなく,子供が自主的にしたいと思えるように導くことにしました.そう思うまで気長に待つことにしました.
「そんなこと言っても,2歳の子供なんて親の言うことなんて聞かないよ.」と思われる方もいるでしょうが,実際の子供の反応は予想以上のものでした.例えば,暑くなってきて,子供が冷蔵庫から氷を勝手に取り出して食べるようになったのですが,「氷は1つだけね.1つ食べたら終わりね.」と言い聞かせると,ちゃんと1つだけで止めるんです.「こら,食べるな!」なんて叱りつけていたら,「欲しい.欲しい.」と泣き叫ぶだけで,何も解決しなかったでしょう.おやつ(当然我が家ではスナック菓子などは一切与えていない)についても同様で,「これで最後ね.」と言っておけば,それで終わりだと納得してくれます.
また,お風呂に入るのを嫌がることも多いのですが,無理にお風呂に入れても,泣き叫ぶだけで,入れてからが大変です.ところが,「お風呂でゴシゴシ洗わないと,体カユイカユイになっちゃうから,お風呂に入ろうか.」みたいに言うと,「はい」と返事して,自分でお風呂へ向かいます.お風呂に入ってからも,頭を洗うのを嫌がったりしますが,そんなときも,「頭もゴシゴシ洗わないと,カユイカユイになるから,ジャージャー洗おうか.」というと,スッと両手を伸ばして,洗ってもらうために親の方へやって来ます.もちろん,いつも素直に聞いてくれるわけではありませんが,自発的に親がして欲しいことをしてくれることが増えました.時々,子供が自分から頭を洗ってもらおうと思うまで待つために,子供と二人で浴室に延々と閉じこもり,のぼせてしまうこともありますが...まあ,それぐらい,気長に待つようにしています.
自我が芽生えてきた子供への対応というのは,その子に大きな影響を与えるという意味で,とても大切なようです.自我に関連する話題は,「子供の自我への対応」に詳しく書いています.参考にしてみてください.
しつけについては,ビシビシしつけをしなさいという主張から,そんなことをしたらダメだという主張まで様々です.これが正しいというのを神様が教えてくれれば楽ですが,自分で選ぶしかない以上は,まずは色々な考え方に触れてみるのも必要でしょう.
幼い子供への接し方として非常に特徴的な方法を提案しているのがシュタイナーです.シュタイナー教育は,幼児に限らず,生まれてから大人になるまでの成長過程全体を対象に,非常に示唆に富む提案をしてくれます.
その基本となるのが,幼い子供は模倣を通して学ぶのだから,親が良い手本とならなければならない,という考え方でしょう.「親は子供の手本」というのは,しつけの原理原則だと思います.あれしなさい,これしちゃダメ,などと口先だけでもっともらしいことを言っても,そういう行動を親がしていないなら,子供が言うことを聞くはずがありません.頭で考えて反抗するというのではなく,手本となる良い行動を親が示さない限り,子供は良い行動なんてできないということです.そういう意味では,「子供は親の鏡」という言い方も真でしょう.何気ない日常生活を見直す必要があります.
松井るり子さんは,著書「七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育」の中で,次のようなことを書かれています.
子供達が喧嘩したとき,「喧嘩するな!」と怒りをぶつけて緊張を高めるのではなく,いいこいいこして優しくすることを教えたジョイス先生の周りで,優しい子が育ったのを見た.大人が譲れることは譲って,聞けることは何でも聞いてやって,初めて子供自身が人に譲ったり小さい子に優しくしたりできるようになる.
「大人が何を言うかではなく,どのような在り方をするかが,生まれてから7歳までの子供に作用するのである」とシュタイナーは言う.つまり,「遊んだ玩具はちゃんと片付けて下さいよ」と言うその私が,机の上とその周りに色々な物を山積みにしている限り,家中がごちゃごちゃなわけだ.何でも真似られていい大人になるのは全く難しいけれど,言葉でなく私の態度が子供を育てているということを忘れないようにだけはしていたい.
シュタイナー教育は「自由の教育」ではなく,「自由への教育」であると言われる.一般に自由というと,子供を様々な規制から解放し,大人から見ると変だというところもこらえて,子供の自主性から生まれ出るものを待たねばならないように解釈されることが多い.その結果,自由の名の下に,子供の日常がテレビとファミコンの習慣に埋もれていたり,大きい子が小さい子を平気でいじめるような状態になることがある.いつか生まれるはずの自主性に頼って,ただ一度の子供時代をそのように過ごさせるのは忍びない.
「自由」というのは,なかなか難しい概念です.子供をのびのびと育てたい,自由にさせてやりたいと思う親も多いでしょうが,それは一体何を意味するのでしょうか,どうすれば良いのでしょうか,子供の好き勝手にさせれば子供は自由なのでしょうか.
自分のやりたいようにやることが自由ではない.怒り,嫉妬,冷酷,残忍さから自由であることが本当の自由だ.人が自分の貪欲を見つめ,なぜ自分が欲張りなのかと,その性質や構造を理解するに従って,人は貪欲から自由になる.それは,無欲になろうと心掛けることとは全く別のことだ.人間は,自分だけでは生きられないのだから,自由になりたいと願っている他の人のことを忘れてはならない.自由は秩序なしには存在しない.他人に対する思慮深さと,内面外面両面の注意深さから秩序が生まれ,秩序と共に自由が生まれる.
さらに,松井るり子さんは,著書「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」の中で,あるシュタイナー学校でのしつけの様子を次のように書かれています.
ボストンのシュタイナー学校では,お弁当を食べた後,食器を自分で洗って拭いて片付けることになっていた.ところが,食べ散らかしたまま遊び始める子がいる.すると先生は「テーブルを片付けてね」と優しく注意する.子供が聞き流して遊びを続けても,先生は優しく注意をし続ける.そうすると,何回かの注意の後,子供は言うことを聞く.子供に注意するときは,何度でも静かに言い続ける.決して声を荒げて怒ったりしない.
また,シュタイナー教育は,7歳までの知的教育を否定し,自然との繋がりを重視して,ゆったりと育てることを勧めます.入門書として,「親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから」や「幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方」などがありますので,読まれると良いと思います.
育児を始めたばかりの私には正解なんてわかりませんが,しつけに対する様々な考え方を知っておくことが大切だと思います.100%正解だと信じられる方針がない以上,様々な考え方に接し,その中から自分で選ぶしかないのですから.そういう努力をすることが親の責務だと考えます.叱るのはダメとか,甘やかすのはダメとか,そういうことではなく,どのような育児方針が子供のために良いのかを真剣に検討するべきだと思うのです.
どのような育児方法にも,長所と短所があるのだと思います.だからこそ,いつまでも育児というのが問題になるわけです.子供にも当然個性があるわけで,画一的な方法ですべての子供を育てられるはずはないでしょう.自分の子供と向き合う中で,子供に合った育児方法を探していく.それが親の務めではないでしょうか.そういう想いから,色々な本を読んで勉強しています.
お母さんはしつけをしないで 著者: 長谷川博一 子育てに悩む親へのカウンセリングで定評のある著者が,カウンセラーとしての豊富な経験に基づいて,「しつけ」について解説した本です.子供に生じている様々な問題(いじめ,不登校,ひきこもり,少年犯罪など)のほとんどが,実は,しつけの後遺症だということです.厳しすぎるしつけによって,子供が追い詰められた結果が,現在の悲惨な状況なのです. 本書は,「このようにしつけなさい!」と号令をかけるタイプの本ではありません.しつけが子供に与える影響,その後遺症,子供のためを思って厳しくしつけてしまう母親の気持ち,現代の子育て事情などを,具体的な例を示しながら解説し,母親はもっと気を楽にしていいのだというメッセージを送ります. 育児に奮闘中の人達はもちろん,これから育児をする人達,そして育児をする人達の周囲の人達,みんなが読むと良いでしょう. |
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0歳からの母親作戦―子どもの心と能力は0歳で決まる 著者: 井深大 育児書ですが,特に母親の重要性が強調されています. およそ3歳までの子供は,何でも吸収してしまう素晴らしい能力を持っていて,この時期に,できるだけ良い刺激を与えなければならないというのが本書の主張です.良い刺激には,音楽,自然,絵画はもちろん,外国語なども含まれます.とにかく本物の刺激を与えることが重要で,乳幼児向けにアレンジされたものを与える必要はありません. 中でも重要な刺激は,しつけです.この乳幼児期に正しくしつけられずに甘やかされて育った子供が,将来道徳観の優れた自立した成人になるなどと,どうして言えるでしょうか.乳幼児には理屈が分からないから,というのは理由になりません.乳幼児期に理解させる必要はなく,体に染み込ませることが大切なのです.常に乳幼児に良い刺激を与えることができるのは母親だけであり,この時期の母親の態度次第で,子供の将来が決まると言っても過言ではありません. |
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幼稚園では遅すぎる―人生は三歳までにつくられる! 著者: 井深大 ソニーの創業者である井深大さんが,自ら取り組んできた乳幼児教育研究のまとめとして1971年に出版されたものです. 「0歳からの母親作戦」の前に書かれた育児書で,やはり,幼児教育における母親の重要性が強調されています.0〜3歳ぐらいまでの時期の乳幼児は,大人の想像を超える能力,刺激の吸収力を持っているため,とにかく良い刺激を多く与える必要があります.音楽や絵画など芸術の才能,記憶力,運動神経など,いずれの能力も遺伝で決まるものではありません.0〜3歳ぐらいまでの時期の育て方で決まるのです.このため,「うちの子は...」と愚痴をこぼす親は,子を責めるのではなく,自分の育て方を猛烈に反省すべきです. |
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子どもの「花」が育つとき―21世紀をになう子どもたちへ!語り伝えたい、育児メッセージ 著者: 内藤寿七郎 著者は小児科医であり,ソニー教育財団幼児開発センターで長年育児相談を担当してきた方です. 本書は,母親に読んでもらうことを目的として,育児について書かれています.主要なメッセージは,自我が芽生える1歳半から3歳までの時期に,子供の自我を否定するような言動をしてはいけないということです.具体的には,「ダメ!」とか「いけません!」と高圧的に否定するのではなく,「〜できるよね」あるいは「〜しようね」と子供に真剣に語りかけるべきだと書かれています. つい「ダメ!」と叱ってしまうお母さん,この本を是非読んでみて下さい. |
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2歳 しからないでもしつけができる 著者: 内藤寿七郎 著者は小児科医であり,ソニー教育財団幼児開発センターで長年育児相談を担当してきた方です. 大切なのは,親が子供を信頼することです.親が子供を信頼していれば,子供は2歳でも約束を守れます.子供の気持ちを無視して,「ダメ!」と頭ごなしに子供を否定していませんか.そんな親の言うことを子供が聞くはずないですよね.無理に親の思う通りにさせようとするのではなく,子供を信じることが大切なのです. つい「ダメ!」と叱ってしまうお母さん,この本を是非読んでみて下さい.本書では,しつけの他に,食事についても書かれています. |
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親だからできる赤ちゃんからのシュタイナー教育―子どもの魂の、夢見るような深みから 著者: ラヒマ ボールドウィン 原著は,シュタイナー教育を志す母親達にバイブルと言われる本です.子供が生まれてから小学校に行くようになるぐらいまでを対象に,シュタイナー教育の考え方と具体的なアドバイスを与えてくれます.シュタイナー教育の指導者の資格を持つ翻訳者の力によるところも大きいのでしょうが,とても優しく書かれていて,読みやすいです. シュタイナーが正しいかどうかを評価するつもりはありませんし,仮に正しいとしても,すべての親がシュタイナー教育を志す必要があるとも言いません.でも,少なくとも,こういう考え方,こういう育児の方法があるのだということは知っておいて良いと思います.育児の全責任は最終的に親が負わなければならないわけですから,知りませんでしたで終わらせてしまうには,もったいないのではないかと思うのです. 是非,一度手にとって読んでみて下さい. |
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幸せな子ども―可愛がるほどいい子になる育て方 著者: 松井るり子 シュタイナー教育に魅せられ,母親としてシュタイナー幼稚園を体験した著者が,生まれてから小学校低学年頃までの育児について,自分の考えをまとめた本です.非常に優しい言葉遣いで書かれており,自分の意見やシュタイナーの意見を押し付けようとするのではなく,こういう育児もありますよと語りかけている雰囲気の本です. 育児の参考書として,またシュタイナー教育の入門書として,素晴らしい本だと思います.できれば,育児を始めるまでに読みたいですね. |
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七歳までは夢の中―親だからできる幼児期のシュタイナー教育 著者: 松井るり子 米国に滞在した1年間,息子をシュタイナー幼稚園に通わせると共に,毎週1度の保育参加も経験した著者が,その幼稚園の様子を詳細に伝えてくれる本です.シュタイナー教育がどのようなものであるかを知りたい人には,非常に参考になるでしょう.大変読みやすく,押し付けがましくなく,幼稚園の様子,保育者の素晴らしさ,子供や大人の反応が素直に書かれていて,著者の感激がそのまま伝わってきます.シュタイナーなんて知らなくても,このような保育もあるのだと知るだけで大いに価値があります.育児に迷いがあるなら,是非とも読んで欲しい本です. |